デュアルエージェンシー: ふさわしい不動産仲介エージェントとは?

最近実際にあった2つの例をご紹介します。

1)あるセラーがある不動産仲介エージェントを通じて物件を売りに出しました。このエージェントはセラーが売りに出している物件に適切なバイヤーを知っていると言っていました。一見魅力的な話に聞こえますが、実はこれエージェントが物件を売りたいセラーに対して自身をエージェントとして雇ってくれるよう説得するためによく使う昔ながらの手法です。もちろん本当に物件にふさわしいバイヤーを知っている場合もあります。

もしもご自身がセラーの立場だったら、ご自身のエージェントがバイヤーのエージェントでもある(またはバイヤーのエージェントがご自身のエージェントと同じ不動産会社のエージェントである)場合、有利な契約が進められると思いますか?

セラーのエージェントがあるバイヤーに物件を紹介し、バイヤーが同じエージェント(または同じ不動産会社のエージェントを通して)オファーすると仮定しましょう。このエージェントまたは不動産会社はセラーの最大利益だけでなくバイヤーの最大利益も追求することになります。セラーとバイヤーが正反対の利害を望んでいれば別ですが、これでは不都合が生じかねません。これを「デュアルエージェンシー」と呼び、利害対立を生むことになります。

関連記事: 「売主のエージェントによる買主探しの手段に関する真実」をご覧ください。

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2) あるバイヤーが、気に入った建物内にある物件のオープンハウスに出向き気に入ったのですぐにセラーのエージェントを通して直接オファーを出しました。このオファーが通らずそのほかの物件にオファーする際は私にエージェントになってほしいので現在販売中の物件をすべての見たい、とのことでした。

もしご自身がこのバイヤー立場だったら、ご自身のエージェントがセラーのエージェントでもある(またはセラーのエージェントと同じ不動産会社の別のエージェント)という状況で有利な取引ができると思いますか?

セラーは担当のエージェントだけでなくその背後にある不動産会社に代理を依頼しているということを忘れないようにしましょう。
結局、この件ではセラーがこのバイヤーのオファーには応じず別のバイヤーからのオファーと契約しました。セラーのエージェントを通じて直接働きかけ競争力をつけようとした努力も台無しでした。

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不動産仲介エージェントはお客様に対して6つの信任義務があります。OLD CARの頭文字で覚えておきましょう。

OLD CAR

不動産仲介エージェントはお客様に対して6つの信任義務があります。OLD CARの頭文字で覚えておきましょう。

1) O – Obedience(忠実)
お客様の倫理的、合法的指示に迅速かつ効率よく従う

2) L – Loyalty(誠実)
エージェントの利益はさておき何をおいてもお客様の最善の利益を追求する

3) D – Disclosure(情報開示)
お客様にとって最高の価格と条件を引き出すため知りうる情報全てを開示する

4) C – Confidentiality(守秘義務)
お客様が情報公開を許可する場合を除いて個人情報を守る

5) A – Accounting and reporting (会計、報告)
取引に関連する資金、物件、書類、報告書、通信記録の全ての情報を報告する

6) R – Reasonable Care and Diligence(合理的な慎重さと勤勉さ)
優れた専門技術と知識をもってお客様の要望に的確に応える

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2) L – Loyalty(誠実)と3) D – Disclosure(情報開示)をよく見てみると、エージェントは「エージェントの利益はさておき何をおいてもお客様の最善の利益を追求する」こと、「お客様にとって最高の価格と条件を引き出すため知りうる情報全てを開示する」ことを誓約しています。

一般的な不動産仲介エージェントの役割を見直してみましょう。

多くの不動産取引では、あるエージェントがバイヤーのエージェントを務め別の不動産会社のエージェントがセラーの代理を務めます。これをエクスクルーシブエージェンシーといいます。つまり専属代理制で、エージェントは6つの信任義務全てを担います。セラーはできるだけ高い金額で売却したい、バイヤーはできるだけ安い金額で購入したい、と考え一般的に利害は相反するので、ほとんどの取引においてエクスクルーシブエージェンシーが理にかなっています。

・不動産取引において、あるエージェントがバイヤーのエージェントを務め同じ不動産会社の別のエージェントがセラーのエージェントを務めることがあります。この場合1つの不動産会社がバイヤーとセラーのエージェントを同時に受託することになります。これをデジグネーティッドエージェンシーといい代理業務は制限されます。デジグネーティッドエージェンシーはデュアルエージェンシーの1つの方法であり、それぞれのエージェントがそれぞれのお客様の代理として交渉を行います。しかし不動産会社はデュアルエージェンシーとしての役割を果たします。この場合、所属するエージェント全員の取引に関する活動に責任を負うはずの不動産会社が、デジグネーティッドエージェントの価格、条件、交渉戦略に関する助言ができなくなります。Loyalty(誠実)、 Disclosure(情報開示)の義務は損なわれることになります。

・まれに一人のエージェントがセラーとバイヤーの両方のエージェントを務めることがあります。これをデュアルエージェンシーといい代理業務は制限されます。バイヤーはこの危険地帯に十分注意しましょう。この状況では、Loyalty(誠実)、 Disclosure(情報開示)義務は一瞬にして皆無となります。えーっ?と言いたくなりますね。
しかし、よく考えてみてください。法律上の事項に関して相手方の同じ弁護士または同じ弁護士事務所の弁護士に弁護を依頼しますか?しませんね。落とし穴は避けて通りご自身の利益を守りましょう。デュアルエージェンシーは避けるのが得策です。

・もうひとつのデュアルエージェンシーの形として、ある物件に二者以上のバイヤーが競合している状況で同じエージェントまたは同じ不動産会社のエージェントが代理を務めている場合です。この状況はよくあるケースで、特にエージェントを多く抱える大きな不動産会社の場合に起こりやすくなります。

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最もよくあるデュアルエージェンシー2種

エージェント一人または同じ不動産会社のエージェント二人がバイヤーとセラーの代人を兼任する場合
エージェント一人または同じ不動産会社の複数のエージェントがある物件購入に関する取引で競合する場合
前述した弊社の実例を振り返ってみましょう。-貧乏くじを引くのはいったいだれでしょうか?

  • 一人のエージェントが同じ不動産物件をめぐり利害が相反する顧客のエージェントを務めながらご自身の利益を守ることができるでしょうか?
  • しかるべきサービスを受けられるでしょうか?
  • ご自身のエージェントは果たしてふさわしいエージェントなのでしょうか?

ご自身の利益を専属で追及してくれる腕のいいエージェントと組むことを考えましょう。

アメリカではアラスカ州、コロラド州、フロリダ州、カンザス州、メリーランド州、オクラホマ州、テキサス州、バーモント州の8州で不動産取引におけるデュアルエージェンシーが禁止されています。

その他の州ではデュアルエージェンシーの業務に関して厳しい情報開示要件とガイドラインが定められています。

・ハワイ州では、口頭及び書面での情報開示と合わせて売買契約書の手続きに入る前に全取引関係者から書面の同意書をとることが求められています。
・デュアルエージェンシー下のエージェントは中立な立場で交渉にあたり、どちらか片方の利益を追求することができません。

・お客様の相談役や擁護者となるはずのエージェントが、取引のまとめ役となってしまうのがデュアルエージェントです。

デュアルエージェンシーによる取引では不動産会社とそのエージェントは決して守秘義務を怠ってはいけません。エージェントはバイヤー及びセラーに対して次のことについて話し合ったり勧めたりすることができません。

・お客様のモチベーションや交渉戦略について

・セラーが受諾するだろう価格、バイヤーが応じるだろう価格

・セラーが却下または受諾するべき価格、バイヤーがオファーまたは支払うべき価格

お客様が書面で許可を出さない限り上記の内容について相手方と情報共有することはできません。

お客様とエージェントの関係で極めて重要なのは信頼と良識ある助言です。デュアルエージェンシーではそのいずれも欠けることになります。忠実義務をなくしては、ご自身を危険にさらす可能性があります。

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デュアルエージェンシーによる「ゆがんだ結末」

2009年The Journal of Real Estate Finance and Economicsで3年余りの間にニューヨークで取引された住宅不動産10,891件のデュアルエージェンシーと最終販売価格の相関関係を確認する分析結果が発表されました。この研究ではインセンティブの不均衡や利害対立がエージェントの言動に影響を及ぼすことが確認されました。

デュアルエージェンシーのなかには、社内のバイヤークライアントにいち早く内見させる「手っ取り早い販売」や社内のバイヤークライアントが同意することを見越した高い価格設定を行う「戦略的価格設定」もありました。また他の取引では、エージェントがセラーに安い販売価格を受け入れるよう圧力をかけたものもありました。

研究はデュアルエージェンシーによる取引の歪んだ結末の証拠が浮き彫りになりました。驚くことに、一人のエージェントによるデュアルエージェンシーと同じ不動産会社の二人のエージェントによるデュアルエージェンシー(デジグネーティッドエージェンシー)にはほとんど違いはありませんでした。

・数年前、あるバイヤーがデュアルエージェンシー取引ののちにハワイ州最大の不動産会社を相手に損害賠償請求をおこしました。このバイヤーは購入した住宅の鍵を受け取った後になって、多額の中間マージンが加算されたことで知らぬ間に過払いになっていたことに気が付きました。セラーとバイヤー両方の代理を務めていたエージェントは販売価格の比較データをバイヤーに提供していませんでした。結局、このデュアルエージェンシー取引を行った不動産会社は数十万ドルの支払いで決着をみました。

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デュアルエージェンシーがこのような低水準のサービスでお客様へのリスクも高いならなぜわざわざ使うのでしょうか?

デュアルエージェンシー取引にメリットはあるのか?


デュアルエージェンシー取引ではバイヤー及びセラーにとってメリットがリスクを上回ることがほとんどですが、下記の例でどのような場合デュアルエージェンシーの方が便利なのか考えてみましょう。

  1. このケースでは、バイヤーとセラーが物件価値や公平な条件について明確に理解し同意していました。交渉は大部分が事前に行われました。円滑にクロージングを進めるための単なる書類準備補助であればエージェントが一人いれば十分な場合があります。
  2. 経験豊富な不動産投資家、不動産開発業者、商業用地所有者など不動産取引や交渉プロセスに慣れているバイヤーやセラーはエージェントが提供する一般的なガイドラインは必要ないでしょう。
  3. コミュニケーションを簡素化かつ合理化するためエージェントが一人で単一窓口となり取引のスピードと効率化を向上させることができました。

弊社は最高のプロ意識を持った不動産売買の専門家です。物件を売却する準備が整った際、弊社が取り扱う物件の購入準備が整ったら是非弊社にご連絡ください。

ご自身の利益のため熱心でふさわしい腕のいい不動産仲介エージェントを選びましょう。