購入目的を明確にする

私たち人間の脳には物事を評価し、決断し、計画を立てることができる「実行機能」が備わっています。目標を管理しつつ軌道から外れないように注意することができる認知制御能力を使って目的を達成しようとします。

目標を設定することができるものの最後までやり遂げる途中で失敗することがしばしばあるようです。私たちの行動は、ある先入観を持って世界を理解しその理解に沿って行動するというパーセプションアクションサイクルに導かれています。

しかし、我々がすでに持っている先入観や偏見は気持ちを動転させ誤った方向へと導いてしまうこともあります。時には、限られた情報と先入観に基づき決断を下してしまいます。気づかないうちにデータや事実は私たちが望んでいるストーリーに沿った形に置き換えられてしまいます。

誤った方向に導かれていく可能性があるのです。滑りやすい坂道では、重視すべきことへの集中力を欠き全体的な目標すら見失ってしまうかもしれません。

恐怖心とPで始まる3つのキーワードに打ち勝つためのメンタルモデルについて、誤った憶測に基づき不動産購入の決断を下すリスクについては以前にご説明したとおりです。

不動産購入は人生で最も大きな買い物のひとつです。一旦購入した不動産は株や投資信託のようにマウスをクリックするだけで売却できるものでもありません。だからこそ、購入する前になぜ購入するのかを明確にしておかなければなりません

したがって

  1. 目的を明確にし、
  2. 適切な方法で購入しなければなりません。

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ここで実際にあった事例をふたつご紹介します。

1)「ホテル代がもったいない」

コロラド州在住のあるクライアントは毎年冬になると6週間ハワイに滞在しています。毎年ハワイを訪れているので、高いホテル代を支払わなくてすむというのが一番の目的でコンドミニアムの購入を決断しました。

また物件の支払いに充てるためいくらかの賃貸収入も望んでいました。

両方の目的を達成することができる現実的な選択肢はホテルコンドの購入です。

a)     賃貸として、所有者利用としてのどちらも叶うバケーション目的の宿泊施設であること

b)最大限の短期賃貸収入の可能性を見込めること

上記のご希望に沿えるようなふさわしい物件リストがすぐにご用意できる状態でした。しかし、このクライアントにはもうひとつ希望がありました。

c)お気に入りスポットであるカイルアビーチに近いこと

高いホテル代を避けるという目的のa)とb)は達成することができたのですが、c)の条件まで満たすとなると達成不可能な条件の組み合わせです。

これは「高品質で速い&安い」サービスを求めているようなものです。3つの条件うち2つを満たすことはできますが、どんなに頑張っても同時に3つ全ての条件を満たすことはできません。なぜなら条件が互いに矛盾するものだからです!どの条件を重視したいのかを決め、落とし所を見つけなくてはなりません。

カイルアのコンドミニアムは30日またはそれ以上の賃貸が認められていますが、短期賃貸は認められていません。カイルアビーチの周辺にホテルコンドはありません。

ホテルコンドとカイルアにある通常のコンドミニアムのメリットとデメリットを比較、評価したのち、このクライアントはカイルアのコンドミニアムを選択しました。

その後…

18年後、このクライアントは18年前に購入したコンドミニアム売りたいと連絡をくれました。初めての賃借人がこのコンドミニアムに18年間住み続け、退去することになったのです!そう、そうです!結局、このクライアントは購入したコンドミニアムを一度も利用することはありませんでした

物件購入後もこのクライアントは毎年冬になるとハワイを訪れていましたが、購入したコンドミニアムには常に同じ人が借り続けていたため、クライアントは高いホテル代を払い滞在していました。

このクライアントはもともとa)、b)、そしてc)の条件を希望していましたが、結局どの条件も満たされる事はありませんでした。

一方で、

  • 毎年高いホテル代を払い続け、
  • カイルアビーチの近くに滞在する事はなく、
  • 賃貸収入は高収入が見込める短期賃貸ではなく平均的な長期賃貸収入に留まりました。
  • 物件の売却では、1031 エクスチェンジを使わなかったのでキャピタルゲインに対する税金、減価償却返還税を支払い、結局、累積されていた不動産関連の税制優遇措置分を返還し、投資リターンとしては低いものとなってしまいました。

当初の目標は全く達成されませんでした。ライフスタイルもキャッシュフローも向上しませんでした。あいにくですがせっかくの計画ももはやこれまでです。

関連記事: 「ワイキキのホテルコンド:家賃収入か、優雅なライフイフスタイルか」をご覧ください。

教訓

当然ですが、損をしたいと思う人はいません。しかし、目標が明確でなかったり、結果として機を逃してしまったりする人は多くいます

自宅を購入する際には、立地、通勤距離、プライバシー、家の大きさ、部屋数、アメニティなどライフスタイルに合った条件を選びます。

そして、投資物件を購入する際には、投資の代償として最高のリターンが得られる条件を選びます。

最高のキャッシュフローが得られる投資は、しばしば最高のライフスタイルが得られる物件ではないことがあります。そして、最高のライフスタイルが得られる物件は、しばしば投資としてはほとんど利益を生まないこともあります。

投資物件を購入しご自身でも利用しようと考えている場合は、投資リターン(キャッシュフロー)とご自身の利用(ライフスタイル)の現実的なバランスを図ることが必要です。

必要性と欲求は異なることを覚えておきましょう。そしてご自身に問いかけてみましょう。

  • 予算は?
  • 何日程度物件を利用するつもりか?
  • どれくらいの広さが必要か?
  • 純キャッシュフローがマイナスに転じた場合の許容金額は?

現実的に考え、ありがちなミスは避けて通りましょう。

キャッシュフローのある理想の生活or理想の生活のあるキャッシュフロー?

弊社には300万ドル以上する物件を購入し空室のままにするクライアントもいます。時々ご自身が滞在するだけで、維持管理費を気にしている様子ありません。

一方で、物件のキャッシュフローを当てにしてメンテナンス費や固定資産税を支払っているクライアントもいます。

ライフスタイルの必須条件がキャッシュフローの必須条件に勝る場合、居住用住宅またはコンドミニアムの選択肢が広がります。

キャッシュフローの条件がライフスタイルの条件に勝る場合、選択肢は少々限られてきます。

おそらく、ご自身の物件利用期間が2週間から数ヶ月程度と長めになると、キャッシュフローよりもライフスタイルの質が重要になるでしょう。

年間2、3日程度の滞在なら宿泊施設としての質よりもキャッシュフローが重要でしょう。

思い描く理想的な結果と最も現実的な着地点を明確にしなければなりません。弊社の多くのクライアントは、ライフスタイルに関する幾つかの最低条件(ビーチに近い、ラナイがある、フルキッチンがあるなど)に加え、物件にかかる経費を賄うことができる賃貸収入によるキャッシュフローを望んでいます。

ご自身にとってのキャッシュフローとライフスタイルの最も現実的なバランスとはどんな状況でしょうか?購入準備の整った際には是非ご連絡をお待ちしております。喜んでお手伝いいたします。

関連記事: 「ハワイバケーションレンタルの「個人利用」に関する税制上の留意点」をご覧ください。

カイルア

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2)「意義ある不動産購入とするためには、10年後に物件価値が○○ドルになる必要がある」

今年初め、初めての住宅を購入するという弊社のクライアントが主たる住居としての物件を探していました。このクライアントには財務会計知識がありました。しかし、提出したオファー安すぎたため、いくつかの優良住宅を逃してしまいました。次第に本腰を入れ、物件に見合った市場の適正価格に近いオファー出すようになりました。

購入契約の成立前、このクライアントはあるジレンマに陥っていたことを話してくれました。物件は彼の希望に沿い申し分なかったけれど「この物件購入を意義あるものとするには10年後には物件価値が○○ドルにならなければいけない」と思っていたのだそうです。どうしてそのような考えに至ったのでしょうか?

このクライアントは、初めての自宅を購入するのにエクイティ(株式)やその他の財政投資と同じように分析してしまったのです。投資特有のリターンに慣れてしまい、主たる住居としての物件のリターンも同様でなければならないと考えていたのです。これは間違った考え方なのでしょうか?

初めて購入する住宅の目的はそこに住むことで「投資資産」ではありません。

投資資産とは?

Personal-finance.extension.orgによると「投資資産とは、副収入目的で取得された、または将来の価格上昇を見込んで投機目的で保有された有形または無形商品です。投資資産の例としては、投資信託、株、債券、不動産、401(k)やIRAなどの退職金制度」などがあります。」と定義されています。

定義のなかで不動産も投資資産として挙げられていますが、住むことが目的である主たる住居は投資信託や株式、債券とは比較になりません。自宅を所有することによるキャッシュフローは生まれません。一方の投資信託、株式、債券に住むこともできませんよね。

家を所有することは賃貸することで長期的な利益を得ることができます。住宅所有権は、金銭では得られない信頼性、安全性、責任能力をもたらしてくれます。そして、あなたは城の城主となることができます。また、誰かに賃料の値上げや立ち退きを言い渡されることもありません。

心理的な利益は金銭的な見返りに勝ります。この投資の配当金は、ご自身が所有する家に住むことができる権利です。価格上昇があったとしてそれは思いがけないインフレヘッジなのです。

簡単に言うと、

  • 投資資産はa)収入b)価格上昇の目的で購入しましょう。(可視化できるリターン)
  • 初めての自宅は安全、快適な住処として購入しましょう。(金銭では得られない利益)

快適な場所に住まなくても良いと言うなら、橋の下にでも住んで快適な暮らしを望む人から賃貸収入を得れば良いのです。ーしかし、そんな生活をするために家を買う人はいませんよね。

経済指標を計算する?

何年も前のことですが、家を持っていないエコノミストにお会いしたことがあります。彼は、家を所有することは経済的に意味がないと主張していました!?おそらく経済的な価値よりも考慮することがあると思いますが。彼とは疎遠になっていますがその後どうしているのでしょうか。

ホノルルでは住宅供給が不足しており、需要はひっきりなしです。賃貸料、不動産価値いずれも長期的に上昇すると見られています。

私個人の決断は、経済的な意味の有無に関わらず、

  • 金銭的な余裕ができたらすぐに
  • 同じ家に少なくとも3年住むことを決めたらすぐに

家を所有するという選択肢でした。

数年後、最初の家を投資として賃貸物件にし、別の家を購入しました。これを何度か繰り返して複数の賃貸物件を所有することになったのです。

思い返してみると、経済的に非常に価値のある決断でした。後悔はありません。仮に人生をやり直す機会が与えられたなら、きっとまた同じことをするでしょう。おそらく、最初の家をもっと早い段階で購入するでしょう。

もちろん、皆に同じことが言えるわけはありません。責任感、自制心、義務感は失われつつある美徳です。

ウォーレンバフェットはかつて「私の人生において自宅を購入したことは妻と結婚したことの次に素晴らしい投資であった」と言っています。「私は家族と共に52年にわたる素晴らしい思い出を重ねることができ、それは今後も続いていく」と加えています。

ー私もウォーレンに同感です。

後悔を予測する

私たちは前を向いて生きていますが、同時に逆算して人生の計画を立てています。

10年後どんな人生を送っていたいか思い描いてみましょう。望むこと全てを手に入れた自分姿を鮮明にします。

そして、10年後の自分に問いかけてみましょう。「理想の人生を叶えるために10年前の自分は何をもっと上手くやればよかったのか、どんな違った方法でやればよかったのか」

このようにして考えを整理することで、不動産のみならず人生のあらゆる場面で目的を明確にすることができます。目標達成に向けた意思決定、行動、習慣の正確性と一貫性を高めます。

まとめ

購入の目的が明確であるほど、目標を実現し失望のリスクを最小化する傾向にあります。物件の利用目的、どれくらいに期間所有するつもりか、売却の際どのようにするのかを明確にしておきましょう。